第2章 アメリカ人になる
第2章 アメリカ人になる
アメリカ人になる
アメリカは多民族国家であるため, 「アメリカ人である」ことは自明ではなく, 「アメリカ人になる」ことが必要
エリク・エリクソン「アイデンティティ論」
「になる」ことなしに「である」ことはない
自分が自分であることを根拠づけるものは, 自分以外のものとの関係付けを通じて確立される
アメリカ的強迫観念
インディアンへの同化願望
「アメリカ人になる」という強迫観念の究極のあり方
インディアンこそが「真のアメリカ人」という認識
じつは, アメリカ人としての究極のアイデンティティの指標はインディアンにある
アイデンティティをめぐる神話化
「アメリカの原住民」との出会いを通じてアメリカ根源を希求する
詐欺師の伝統
フランク・ウィリアム・アバグネイル・ジュニアやイエロー・キッド
ずば抜けた才覚を示すアンチヒーローが大衆の人気者
南北戦争前期以降に出現する元祖信用詐欺師の起源はヤンキー行商人にある?
フロンティア空間に詐欺師活躍の場が用意されていた?
スティーブン・バロウズ
建国期の辺境な社会への風刺と体制転覆的抵抗が権力支配や隷属状態からの脱却という独立革命の精神と共振
アメリカのアダム
「アメリカの神話」とキリスト教の神話の関わり
R・W・B・ルイス『アメリカのアダム』
「旧世界」ヨーロッパの象徴する過去に汚染されていない無垢な人間アダムとしての「新世界」アメリカ人
新世界の自由を希求しながら過去の力に囚われ葛藤する人間の姿
教育を受けていない貧乏白人の浮浪児であるフィンは無垢なアダム的人物
逃亡奴隷で重罪人のジムを助け社会の法に背くフィンの姿
楽園転落後の人間の生の皇帝
ル=グィン「彼女は彼らから名前をとる」
男性中心で言語の力を持つという聖書以来の世界観の批判
アダムを一人残して他の生き物と楽園を出ていく「私(イヴ)」
アメリカン・アイドル
アイドル=神の似姿を偶像化した図象のこと
神を身近にイメージさせるもの
アメリカの「アイドル」としての大統領からポパイまで
人間的な偶像
アメリカ合衆国紙幣に描かれる英雄たち
アメリカ的偶像化の端的な例
アメリカ大統領
危機を乗り越えるアメリカ的価値観や建国理念をわかりやすく提示
https://gyazo.com/db5ef4d10668bbf9103ca47c5e6008ce
リンカーンの偶像化
新田風の記念堂に座る威容と, 折り目のないズボンの庶民性
アメリカ民主主義の特質の反映
ラシュモア山にも, 特に著名な歴代大統領の顔の彫刻があり, もちろんリンカーンも彫られている
個人の偶像化
恵まれない条件をいかに克服したかが重視される
self-made manであること
アメリカの誕生がもたらした価値観に直結
「自由にして独立なる」アメリカ像
国家ではなく個人への信頼
wildernessに立ち向かい開拓を進めてきたという背景
開拓され尽くして複雑化していく社会にあっても, 自然の中での経験から社会を批判していく人物がアイドル視される
アイドルのアイテム化
開拓地に登場するアイドル
自然により近く位置し, 複雑な社会を離れることで偶像化される
大自然や先住民, ギャングなどから家族を守り, 正義を貫く男たちの姿が西武アイドルとして描かれる
戦うヒーローの偶像化
変身型のヒーロー
グッズ同様, それらのアイドル像自体も商品として流通, 大衆が買うことができる「アメリカン・ドリーム」
負の条件をいかに超絶していくかという人間的な姿と, 誰にも入手可能なアイテムとしての流通可能性にアメリカン・アイドルの特徴がある
キング牧師とマルコムX
映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』
アメリカ人の受容と拒絶を示す
J・H・コーン
二項対立的な存在ではなく, 晩年には二人の距離は相当接近していたと分析
対立を超えて
Nation Of Islamからのマルコムの脱退
元は分離主義を主張し, 白人を悪魔とみなしていたマルコム
脱退後は思想に変化, 公民権運動とキングの価値を認め始める
公民権法成立にもかかわらず, 人種と貧困の問題が軽減されなかったことをしる
これ以降, 分離主義的思想に接近していくキング
事実として白人的なアメリカと黒人的なアメリカ, 「二つのアメリカ」が存在することを認めざるをえない
ゲットーの状況を抜け出すには, 現に分離されている黒人共同体を黒人の手によって支配しなければならないとの考え
「私は告白しなければならない, 私は夢が悪夢に変わるのを見始めたということを」
二重のアイデンティティ
コーン「デュボイスの二重自我における二つの側面を代表していた」
互いを批判するが共通の敵に対して異なる立場で戦う
二人の接近は, キングを英雄として描きたいもの, あるいはマルコムを民族主義的アンチヒーローにしておきたいものにとっての脅威であり, だからこそ対比的な構造の中で提示され続ける
エリス島ー「移民の歌」が聞こえた場所
エリス島
1891年に州から連邦へと入国審査の管轄がうつされ, 翌年から当地に移民管理局が開設, 移民の受け入れ地となる 「新移民」
東欧・南欧からの移民が多かった
1917年までは受け入れが前提ではあったが, 移民ラッシュと不十分な設備・管理のため待遇は劣悪であった 他社排除の機運, 移民割り当て法の成立
社会のボーダーレス化に対する危機意識
英語も話せない, 文化の違う人々
労働市場の「侵略」という経済的な不安
その後, エリス島は不法入国者や敵性外国人の週刊所として使われ1954年に閉鎖 現在はニューヨークの観光名所に
クレオールとは
越境的で混淆的な文化の運動性そのものを示す
定義的な曖昧さ, 流動性, 便宜的性格を抱えている
「クレオール化」
混淆的な文化変容力としての特性をより厳密に捉えようとする試み
国家的・制度的規範を逸脱し, 単一原理の専横に反抗し, 純化より混濁化, 透明性より不透明性を志向する全ての動き
クレオール的なものに根を持つ
話者が流動的に変容する特異な文体
クレオール性を文学言語として体現した稀有の実践とも言える
この小説では「クレオール」はイデオロギーとしてのアメリカが潜在的に宿している最も恐ろしい不安=脅威として暗示
クレオールの島ハイチ
クレオールの否定的潜在
ハイチは占領期には黒人国家としては不可視化, 奴隷反乱を恐怖する南部白人にとっての存在論的不安の潜在的な根拠
「人種混淆」へのアメリカ的不安
グリッサン『フォークナー、ミシシッピ』
ラフカディオ・ハーン
アメリカ南部に歴史的に伏在するクレオール文化を現代的な想像力において発見
アメリカ的文脈の中で「クレオール」なる概念を南部文化の諸相に広く適用, 流布させた中心的な人物
『キュイジーヌ・クレオール』
クレオールと「アメリカ」
「アメリカ」が「非アメリカ」と接触する界面に生まれるものがクレオールである
奴隷制を介した白人と黒人の対峙をめぐる状況
ハイチやキューバなどの出自を持った移民や亡命者たちの共同体が接触・融合・反目する界面に現れている問題系
エドウィッジ・ダンティカなど
アメリカという近代のイデオロギー的支配原理が本質的に孕んでいた排他的傾向に関わる矛盾を最もアクチュアルな問題意識によって批判する概念としての「クレオール」